19c 浄法寺塗”鶴亀松竹梅模様”鏡巣

製作地 日本・東北地方 岩手県 浄法寺エリア
製作年代(推定) 19世紀後期 江戸時代末~明治時代
素材/技法 鏡:白銅、漆器:木胎 / 鋳造、漆絵
サイズ 鏡:外径12cm・高さ1.8cm・重さ736g、漆器:外径14.2cm・内径12.6cm・高さ5.5cm・重さ172g

岩手県(旧盛岡藩)の浄法寺エリアで手掛けられた蓋物漆器の鏡巣と白銅製の円鏡、19世紀後期(江戸時代末~明治時代初期)の作品です。

婚礼支度品(嫁入り道具)として裁縫道具・化粧道具等を収める蓬莱箱が漆器で仕立てられ、この鏡巣(鏡筥)も一式のひとつとされたもので、金箔を用いず黄漆・朱漆により金蒔絵風の絵付けがなされる点に浄法寺塗の特徴が表れております。

本鏡巣は鶴亀と松竹梅図が朱を加えた黄漆により描かれたもので、端整かつ伸びやかな絵付けの筆致に時代に由来する古格が薫ります。円鏡は鈕(紐通し孔)を有する大亀を中央に、双鶴と3羽の子鶴・老松・州浜等が描かれた典型的な蓬莱図様式の作例で同時代の鋳造品です。

本来破損を免れない種類の生活調度品としての木胎蓋物漆器であり、代々大切に保存・継承されてきた伝世品とも位置づけられる貴重な品モノ、目にし手にしていると土地と時代の物語が頭の中に広がり豊かな心地となります。

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インド・カシュミール 18c後 カシミヤ綾地綴織ショール裂

製作地 インド ジャンムー・カシュミール州 シュリーナガル
製作年代(推定) 18世紀後期 アフガン期
素材/技法 カシミヤ山羊の内毛、天然染料 / 2/2綾組織、綴織(ダブルインターロック)
サイズ 横(経)10cm、縦(緯)15cm

多色の段模様で構成された18世紀後期(アフガン期)インド・カシュミール作のカシミヤ綾地綴織ショール部分裂。

多色に染めた上質なカシミヤ山羊の内毛糸を素材とし、2/2綾組織をベースにダブルインターロックの綴織により段(縞)模様と蔓花モチーフが細密なうえにも細密に織り上げられたもので、その緻密な文様表情は息をのむような巧緻さと独自の完成美が感じられます。

10cm×15cmの小裂ながらサイズを超えるスケール感と色香が濃密に薫る一枚、素材面・技巧面・意匠面のいずれをとっても今では失われし、また現在では再現することの出来ない孤高の染織作品です。

(下は光学顕微鏡による画像)

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20c初 東北地方 木綿絞り染め&紅花染め・幼児用腰巻

製作地 日本 東北地方
製作年代(推定) 20世紀初期 明治時代~大正時代
素材/技法 木綿、天然藍、紅花 / 絞り染め、型染(紐)
サイズ 全幅(布本体)94cm、縦29cm

紺地木綿絞りを表に、紅花染め木綿を裏に縫い合わせて手掛けられた東北地方の幼児用腰巻、20世紀初期(明治~大正時代)の作例です。

防寒の実用性とともに肌に触れる裏に紅布が配されることには病除け・厄除けの意が込められており、おばあちゃんや母親の着物・襦袢等の古布から作られる慣習を有したものとなります。

帽子絞りと鹿の子絞りが併用された紺地絞りの素朴で大らかな表情と常盤紺型(ときわこんがた)の紐の組み合わせからは東北地方の手仕事に固有の空気感が色濃く薫るもの、模様と色に込められた祈りの精神性に心惹かれる一品です。

(下は光学顕微鏡による画像)

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20c初 絹麻交織地”海鳥&波模様”描き染め着物裂

製作地 日本 ※地域不詳
製作年代(推定) 20世紀初期 明治時代
素材/技法 経:絹、緯:麻、染料、顔料 / 交織、描き染め
サイズ 横幅(緯)35cm、長さ(経)69cm

薄浅葱の染め地に飛翔する海鳥と波模様が描かれた、20c初期明治時代作の着物裂。

染め色の瑞々しさが印象的で涼やかな意匠ですが、織り地として強撚の絹(経)と不撚の麻(緯)の交織布が用いられており肌触りも涼やか、単衣着物(帷子)の解き裂と推察されるものです。

生き生きとした飛翔姿の海鳥と躍動的な波頭模様の融合ぶりが見事、海鳥は白抜きに線描き、波は筆描き調のベタ塗りと巧みに強弱が加えられており、明治期と推定される作例ながら江戸職人直系の染め師の精神性を感じ取ることができます。

目にしていると清々しく大らかな心地となるような一枚です。

(下は光学顕微鏡による画像)

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藍が薫る山間の市場で

ベトナム ラオカイ省 サパにて

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冬の陽だまりで

インド グジャラート州 カッチ地方にて

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インドネシア ラスム 19c 手描き茜染め更紗 頭布

製作地 インドネシア・ジャワ島 ラスム Lasem / 使用地 インドネシア・スマトラ島 パレンバン Palembang
製作年代(推定) 19世紀末
素材/技法 木綿、天然染料(茜・藍) / 手描き蝋防染、媒染、描き染め、両面染め
サイズ 95cm×100cm

茜染めの赤の発色が極めて明瞭で美しい、19cジャワ島北岸“ラスム(Lasem)”作の手描き茜染め更紗。

スマトラ島パレンバンの貴族・富裕層向けに手掛けられた頭布”クパラ(kepala)”で、クパラとしては比較的大きなサイズのもの、蝋描き・媒染染め(茜)・描き染め(藍)が布両面で巧緻になされており、アリザリン合成染料(化学染料)が使用される前のラスムの木綿赤染めがインド更紗に伍する技術の高さに達していた様子を伺うことができます。

”ガンゲン(海藻)模様”が元と考察される渦巻き状連続文を主模様に、パレンバン・ジャンビの頭布に顕著なアラビック文、更にインド更紗の影響が色濃いことを表す多層ボーダーと”ヤントラ模様”が交配されており、海洋交易の中で熟成した染織作品としてデザイン面においても興味深く見所の多い一枚です。

(下は光学顕微鏡による画像)

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19c 琉球王朝期 木綿”花色地網目に小紋散し模様”紅型裂

製作地 琉球王国(現日本国・沖縄県)
製作年代(推定) 19世紀中期
素材/技法 木綿、顔料、染料 / 型染(朧型)、糊防染、片面染め
サイズ 横12.5cm×縦20.5cm

19世紀中期の琉球王朝期に手掛けられた木綿”花色地網目に小紋散し模様”紅型裂。

白地型紙と染地型紙を用いて重層的に模様を表現する”朧型(ウブルガタ)””重型”の技法で染められた作品で、袷衣裳(ワタジン)の表か裏、若しくは両面が表となるリバーシブル衣裳に用いられたと推察される裂地です。

淡い色味の花色を地染めに黒の網目(蔓草繋ぎ)模様が重ねられておりますが、この網目が不規則的であるとともに散し模様もカタチと染めがランダムである点が本作品の特徴で、裂上に型紙の送り位置を確認することができず、どのような型紙が用いられたのか興味を惹かれます。

型紙づくりに関しても、染めに関しても、同種の朧型小紋紅型の中では相当手の込んだ部類のものと位置づけられ、上質な木綿地に精緻な染めがなされていることからも、王府からの特注で手掛けられたものの可能性を指摘することができます。

(下は光学顕微鏡による画像)

(参考画像) 花色地ウブルガタ紅型が表地に用いられた袷衣裳

※上画像はサントリー美術館刊『紅型 琉球王朝のいろとかたち』より転載いたしております
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19c 琉球王朝期 木綿”水色地桐に梅笹鉄線散し模様”紅型裂

製作地 琉球王国(現日本国・沖縄県)
製作年代(推定) 19世紀中期
素材/技法 木綿、顔料、染料 / 型染、糊防染、両面染め
サイズ 横(緯)36.5cm、縦(経)53cm

19世紀中期の琉球王朝期に手掛けられた木綿”水色地桐に梅笹鉄線散し模様”両面染め紅型裂。

琉球藍による”水色地(ミージー)”の瑞々しい色合いと、華やかながら同時に落ち着きを兼ね備えた顔料ひとつひとつの美しさに目を惹かれる作品です。

多様なモチーフが巧緻な両面染めの技法で見事に表現されており、王朝期紅型製作の技術の高さを伺うことができますが、本紅型は実際に王府内のかなり高位の者のために手掛けられ、単衣の夏衣裳として使用されたものではないかと思われます。

36.5cm×53cmの大判裂で衿が重なっていた箇所が斜めの線で残っており、衣裳前身頃の解き布と確認できますが、京都書院刊「琉球紅型」(最下画像参照)に細部までまったく同じ染め色かつシミの具合も同じ布の掲載があり、本裂と同じ衣裳から解き分かれた共布と推定されます。

衣裳全体や身に纏っていた人を想像しつつ、時代の浪漫を感じることができる一枚です。

(下は光学顕微鏡による画像)

(参考画像) 本裂の共布(同じ衣裳からの解き裂)と推定される写真が掲載された文献

京都書院刊「琉球紅型」(昭和55年発行)
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19c 江戸時代末 木綿”波乗り兎”模様 筒描布

製作地 日本 ※地域不詳
製作年代(推定) 19世紀後期 江戸時代末
素材/技法 木綿、天然染料、天然顔料 / 筒描、線描、摺込み
サイズ 幅(緯)36cm、長さ(経)85cm

荒波に立ち向かうように駆ける姿が印象的な”波乗り兎”模様の木綿地筒描布。

婚礼等のお祝いごとに際して紺屋(こうや)への特別な発注で手掛けられるものであり、作品からは吉祥感・躍動感とともに布に込められた祈りが伝わってまいります。

両織り耳と織り始(下辺)が備わった一巾分の布で、製作当初の作品の種類・用途は定かではありませんが、上部の朱赤横縞の入り方を見ると蒲団表や夜着ではなく、馬掛け或いは小ぶりな油単として数枚接ぎで仕立てられていたもののように思われます。

うさぎは輪郭線を伴わずに手描の破線や暈しを駆使して柔らかく表現している点は江戸期の染め職人仕事に符合し、波・飛沫の描き方と青の色彩感、ベンガラの落ち着いた色味を併せ、時代に由来する風雅と精神性が薫ってまいります。

一巾分ながらしっかりと完成美を宿している点が本布の最大の魅力であり見どころ、江戸期紺屋職人の技術の高さとセンスの良さ、粋(いき)が実感される一枚です。

(下は光学顕微鏡による画像)

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