パキスタン カイバル・パクトゥンクワ州 ペシャワールにて
インド 17-18c 日本渡り 絹・木綿交織縞”甲比丹(カピタン)”裂
製作地/渡来地 インド/日本
製作年代(推定) 17世紀~18世紀初め 江戸時代初中期
素材/技法 経糸:絹、緯糸:木綿、天然染料/平織
サイズ 横(緯):11.5cm×縦(経):22.5cm
インドで手掛けられ17-18cの日本にもたらされた絹・木綿交織縞”甲比丹(カピタン)”裂。
ポルトガル語で船長を表わす”capitão”が日本での呼称の由来とされるインド渡来の”甲比丹(カピタン)”は、緯糸に木綿、経糸に極めて細い色絹を配し平織により縦縞を表わした交織織物で、絹の艶やかさ滑らかさと木綿の柔らか味を兼ね備えた独特の布感が特徴となります。
この甲比丹は、安土桃山~江戸初中期、ポルトガル人の南蛮船及びオランダ人の紅毛船の初期に限定的に舶載されたと考察され、当時の日本では未知の表情・触感を有する布として、大名・貴族そして富裕商人・数寄者が憧れ珍重した様子が資料文献から伺われます。
本裂は緯の木綿に”白”、経の絹に”白・金茶・紅・黒”の4色が配され、多彩かつ緻密な色柄構成の縞(筋)が表されたもの、糸遣いと織りには並々ならぬ繊細さが感じられ、木綿と絹を交織しお互いの長所を見事に引き出した古の染織としての完成美が薫ってまいります。
甲比丹・唐桟留等の渡り嶋物が、江戸中後期の日本”縞物”(の流行)に与えた影響の大きさは計り知れないものがあります。浮世絵により”嶋(縞)”の世相を確認することができます。
(下は光学顕微鏡による画像)
20c初 木綿”三階菱&藍花模様”紅絞り染め裂
製作地 日本 ※地域不詳
製作年代(推定) 20世紀初期 明治時代
素材/技法 木綿、天然染料 / 絞り染め
サイズ 幅(緯)33cm、長さ(経)70cm
手紡ぎ・手織りの木綿地に”三浦絞り””傘巻き絞り”の技法により模様が表された、20世紀初期(明治時代)作の紅絞り染め古裂。
紅花染めと絞り模様のこのデザイン様式の木綿布は襦袢(とくに半襦袢)として用いられたものが多いことが知られており、本品も布両端に残る縫い目跡と70cmの長さから半襦袢解きの一幅とも推察されます。
三浦絞りの敷き詰めにより”三階菱”が表され、傘巻き絞りにより”花模様”が表されておりますが、本布は紅花単色ではなく”花模様”に藍が加えられている点が最大の特徴、細部を良く見ると”淡藍(浅葱)””濃藍(群青)”及び紅花と藍の重ね色”黒褐色”が巧みに染め分けられており、防染と染めの工程に並々ならぬ手間暇と高度な技術がかけられていることが分かります。
時代に固有の濃密な色香に魅了される一枚です。
(下は光学顕微鏡による画像)
19c 琉球王朝期 木綿”白地流水扇に葵菖蒲鳥模様”紅型裂
製作地 琉球王国(現日本国・沖縄県)
製作年代(推定) 19世紀初中期
素材/技法 木綿、顔料、染料 / 型染、糊防染、両面染め
サイズ 横(緯)35cm、縦(経)33cm
19c初中期の琉球王朝期に手掛けられた、木綿”白地流水扇に葵菖蒲鳥模様”紅型裂。
生成り掛かった厚みのある木綿地に両面染めの技法で多様なモチーフが描かれたもので、この系統の紅型は冬の単衣裳として用いられる場合が多かったことが残存作品及び文献資料により確認することができます。
製作には”中手模様・大柄”の白地型紙が用いられており、大ぶりで絵画的なモチーフ構成が本作品の特徴、”菖蒲””葵”等の草花模様が生命感豊かに描かれるとともにモチーフ間を繋ぐ”流水模様”が画面全体に絶妙な躍動感を加えております。
型紙の送りは約22cmで”飛翔鶴”が灰色で染め描かれた箇所が送り位置と確認できますが、この”飛翔鶴”だけが片面染めとなっていることから、これのみ別な型紙で最後に加えたものとも推察されます。
色彩面では基調となる”朱赤”の色味が印象的で、華やぎと和らぎが交わる固有の染め色からは”王朝期紅型”たる格調の高さと時代に由来する豊かな精神性が伝わってまいります。
(下は光学顕微鏡による画像)
(参考画像)近似するデザイン様式の木綿白地両面染め紅型・単衣裳
19c 琉球王朝期 木綿白地流水葵桜百合貝模様衣裳 東京国立博物館蔵
※上画像はサントリー美術館刊『紅型 琉球王朝のいろとかたち』より転載いたしております
ペルシャ 19c前 カシミヤ綾地緯紋織ショール裂
製作地 ペルシャ(イラン)
製作年代(推定) 19世紀前期
素材/技法 カシミヤ山羊、天然染料 / 地:2/2綾組織、文様:2/1及び1/2綾地緯紋織&縫取織
サイズ 横(緯)10cm、縦(経)13cm
蔓花連続模様の左右ボーダーに挟まれ、複雑に重なり合うボテ(ペイズリー)模様及び小花模様が多彩かつ精緻に織り表された19世紀前期(シク期)のカシミヤ・ショール部分裂。
オフホワイト糸の2/2綾組織を地に、文様は綾地の2/1及び1/2緯紋織(&縫取織)で構成されており、綴織技法が用いられていない点が本作品の最大の特徴、素材・技法・意匠を総合してインド・カシミールではなくペルシャ・ケルマン若しくはヤズドで製作されたものと推定できます。
大きな本体柄を有するショールの最端ボーダー、或いは同巾の段模様が色を変えて複数連なるストライプ柄”カートリーズ・ショール(khatreez shawl)”であった可能性が考えられ、巧緻な織りをミクロ面で観察・鑑賞する楽しさとともに作品の全体像を想像することにも愉しみを見い出せます。
荘厳かつミニアチュールな織りの世界観、二百年前後を遡る時代の特殊織物から薫る新鮮かつ濃密な色香と生命感に惹き込まれる一枚です。
(下は光学顕微鏡による画像)