



先祖崇拝の祝祭・葬祭で着用されるラオ・ソン族(Lao Song)の男女の上着”スア・ヒ(sua hi)”においては、衣裳の表と裏とが反転します。
より凝ったパッチワークとアップリケ装飾が施される”表”を自身の身体に密着させ”裏”を外界へと向けます。密に織られ黒染めされた木綿地、表と裏で破綻の無い極細密な針縫いと装飾モチーフは守護・吉祥とともに自身の魂を健全に保持し先祖の魂と交信する術(すべ)となります。
装飾について特筆すべきは、脇スリット(=隙間)から魔が入り込むのを防ぐための目眩ましの渦巻”吊るし鉤(kho kut)”モチーフの出来の秀逸さで、ひとつひとつが揺れている視覚効果を生み出すために、巧みな糸遣いと刺繍技術を加えていることが判ります。
上着の所有者が亡くなった際には表裏を逆転させ、生前は身体に密着させていた側(表)を外界に表出させ棺に掛けますが、これは生者と死者の魂の行方と関わるラオ・ソン族の死生観に基づく慣習であり、どのように培われてきたものなのか興味が尽きません。
デザイン面においても織り・染め・縫いの技巧面においても固有の完成美を有する衣装作品で、それは上記のような精神的密度の高さに由来するものとなります。

タイ ラオ・ソン族 刺繍&パッチワーク 男性用祭事衣装
製作地 タイ中部 ペッチャブリー 県 Phetchaburi
製作年代(推定) 20世紀半ば
民族名 ラオ・ソン族 Lao Song
素材/技法 木綿、絹、染料 / 平織、刺繍、パッチワーク、アップリケ
サイズ 袖丈46cm、肩幅45cm、着丈約87cm






(下は光学顕微鏡による画像)


