
インドネシア・スマトラ渡り 19c インド絹経緯絣パトラ
製作地 インド グジャラート州
製作年代(推定) 19世紀初期
渡来地・使用地 インドネシア スマトラ島
素材/技法 絹、天然染料 / 経緯絣
サイズ 幅(緯):約80cm × 長さ(経):約220cm



横溢する色彩の生命力に目と心を奪われる約2百年前の絹経緯絣パトラ。
19c初めムガル期の作でパトラ本来の素材感・染め織り表情・触感が孤高の生命として宿っている様を実感できます。
この時代のパトラは経緯ともに無撚・甘撚の絹平糸(下の光学顕微鏡画像参照)と茜・藍・ウコンを主とする天然染料を素材に、素材作り・括り・染め・織りのいずれをとっても高度な世襲職人技術による経緯絣として完成されているもので、本来はムガル宮廷・藩王国の王侯貴族向け衣裳・儀礼用布(本品はドゥパッタ)として優美かつ”軽やかで・柔らかく・肌触りが良い”を旨として手掛けられたものとなります。
セリシンが適度に残るローシルク(raw silk)が用いられることで色の染まりが何とも深くかつ豊かで、光沢は抑えめの気品あるマットな表情を呈する、そして布を手にした際にはふわりとした柔らかみと包み込まれるような肌触りの優しさが感じられます。
絹(=タンパク質繊維)を素材に、更に撚りを掛けない平糸を用いた19c当時のパトラは、インドでの本来の用途(婚礼等短期・低頻度の使用)を鑑みると、必ずしも布の耐久性に重きが置かれてはいなかったことが推察できますが、近世海洋交易でこれを手にしたインドネシアの島々の王侯貴族たちは、これを”聖なる布””家財”として崇め長期伝世させること(保存・継承)に重きを置いたため、結果インド国内より遥かに多い数の完品・裂が残り、本布のようにいまここに賞翫できる幸運があるように思います。
なお、最下掲載の参考画像「20世紀初中期に製作されたパトラ2種類の糸と織り」で確認できるように、20世紀に入ってからのパトラは撚糸・精練された均質な絹糸(歴史的に輸入糸の可能性がある)が用いられ、織り組織は密で整っており、一般的な見方においてはより高品質であることが判ります。
19c初期作の本パトラは短繊維を紡ぎ・平糸を結び繋いでいる瘤状痕が確認できることから”アヒンサー(不殺生)繭”のローシルクを使用している可能性があり、粗く不均質ゆえに特有の味わいと表情の豊かさがあると言うことができます。インド更紗に照らすと”鬼手”に近しいものであり、日本で一部の茶人・数寄者が愛玩した所以かもしれません。
マクロにもミクロにも底知れぬ魅力と発見があり、幽玄美に魅了される19cパトラです。
(下はすべて光学顕微鏡による画像)





(下・参考画像) 20世紀初中期に製作されたパトラ2種類の糸と織り

